ごく平凡なアメリカの優等生が描かれた短編4作.シュールな要素や詩的言語空間にかかわることなく，「私」あるいは「僕」の視点を中心に，構文的に妥当な文章が淡々と流れています.
注）ネタバレの可能性はあります.
注）弁証法風ですが弁証法ではありません.
[会計士]
1.1.テーゼ：優等生だったが平凡な会計士である「私」
1.2.アンチテーゼ：アホで間抜けだったが実業界で一山当てて大物になった「ライバル」
1.3.ジンテーゼ:浪費妻の夫はいつも満たされない
[バートルシャーグとセレレム]
2.1.テーゼ：ごく普通の高校生「僕」
2.2.アンチテーゼ：超天才神童かつ言語発明者かつジミヘン&クラプトン&マリファナ愛好家「兄」
2.3.ジンテーゼ：兄弟をまたにかける女の話はいつの時代にも絶えない.
[傷心の街]
3.1.テーゼ：妻に逃げられた「ウィルソン」
3.2.アンチテーゼ：「私」と逃げられた妻の間の一人息子で大学生の「ブレント」.
3.3.ジンテーゼ：「子はカスガイ」
[宮殿泥棒]
4.1. Introduction: これは一教師「私」の物語である.
4.2. Overview："教師の敵"となるある生徒のインチキ人生
4.3. Conclusion：教師は生徒に過剰な期待をかけ，そして常に裏切られるのである.
本書収録全短編についていえることかも知れませんが，これらの作品に?ありえない偶然性，?物語の中で科せられてゆく常軌を逸した制約，?エントロピーの増大，の要素を加えるとポール・オースターになるナと思いました.ので，ポール・オースターは好きだけど???が嫌いという人にはお勧めです.また，訳者が柴田元幸なのでオールターの翻訳と同じような淡白性質の日本語文体を感じるように仕向けられるかもしれません.
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